研究概要

代表者氏名松岡 悦子(まつおか えつこ)
代表者所属機関奈良女子大学研究院生活環境科学系
役職・課程教授
助成年度2013年度

研究テーマ

マタニティー政策の日英比較ーバースセンターの調査を中心に

研究概要

 英国のマタニティー政策と日本のマタニティー政策を比較するために、英国のバースセンター6か所を訪問し、聞き取り調査を行った。病院ではなくバースセンターを訪問したのは、現在のマタニティーケアにおけるオールターナティブの視点から全体を見るためである。現在英国では4種類の出産場所がある。自宅、バースセンター(独立したバースセンターと病院併設のバースセンター)と病院である。病院併設のバースセンターでの出生数は病院の中に含まれるため、これら4か所の正確な出生数はわからないが、現在の英国では健康な女性は自宅やバースセンターなどの病院外の場所で出産するのが望ましいとされている。これは1993年に出された報告書"Changing Childbirth"の到達点と言える。現在でも病院での出産は依然として90%以上を占めるが、このような政府の政策転換のもつ意味は大きい。なぜなら、1993年以降のマタニティー政策は女性の「選択」を中心にしており、そこには個人と国家の関係、専門職間の関係、ジェンダー関係を巡る大きな転換が含まれるからである。個人の選択を政策の中心に置くということは、個人を国家に優先させ、しろうとを専門職に優先させ、ジェンダー間の不平等を排する考え方に基づく。現在のマタニティー政策は、国会での膨大な議論の積み重ねの結果であり、それは単に女性の出産だけの問題ではなく他の政策にも影響を与えている。英国の政策との比較から日本が学ぶべきは、あらゆる政策において、個人と国家の関係を再考することであろう。