研究概要

代表者氏名山下 真里(やました まり)
代表者所属機関東京都健康長寿医療センター研究所
役職・課程研究員
助成年度2021年度

研究テーマ

認知症の人とその家族への心理的支援の体系化:電話を活用した受診前・診断後支援手引書の作成

研究概要

【問題と目的】
認知症の人とその家族の専門支援機関の一つとして,認知症疾患医療センターが整備されている。しかし,診断後支援の内容は情報提供が中心であり,家族が抱える多様な相談ニーズに十分応えているとはいえない。本研究の主な目的は,電話を活用した診断前後における,認知症の人と家族の相談ニーズと,その心理的支援を類型化することである。特に,新型コロナウイルス感染症流行前後を比較することで,相談ニーズの変化や,感染症流行下でも継続可能な支援体制について提案する。その結果を踏まえ,診断前後の認知症の人と家族に対して有効な心理的支援策を検討し,手引書を作成した。

【方法】
電話相談の類型化:川崎市の認知症疾患医療センターである日本医科大学街ぐるみ認知症相談センター(以下,相談センター)に,2019年7月~2021年11月の間に寄せられた835件の電話相談記録を分析対象とした。電話相談では,もの忘れに関する相談に加えて,相談者の続柄などを聴取した。これをコロナの時期別(コロナ禍以前:~2020年3月,コロナ禍以降:2020年4月~)に集計し,カイ二乗検定を用いて分析した。
手引書の作成:医師,看護師,心理職,研究員等の多職種ワーキンググループ(WG)を結成した。WGでは認知症の人とその家族への心理支援の現状と課題について6回に渡って議論し,これと電話相談の類型化を踏まえ手引書を作成した。さらに他の認知症疾患医療センター関係者にヒアリングを行い,手引き書の改良を行った。

【結果と考察】
電話相談の類型化:電話相談の件数は,コロナ禍以前は月平均18.4件であったが,以降は33.5件に倍増している。また,コロナ禍以前と以降における相談者の属性の変化は(図3),本人からの相談(28.0%→29.2%)と夫からの相談(3.0%→6.5%)が有意に増加した。相談内容の比較は(図4),家族関係の相談(4.0%→7.0%)と,その他(10.9%→42.3%)が増加し,日常生活の相談(39.1%→33.1%)が減少した。本人の相談ニーズが増えたことから,電話相談が対面相談の代替手段として活用されている可能性がある。また,コロナ禍で家庭外の活動が縮小したことにより,家族関係の相談が増加したと思われる。さらに,その他の相談が増えていることからも,相談内容の多様化・個別化が示唆される。
手引書の作成:「認知症の人と家族のための心理支援の手引き」としてまとめ,東京都および神奈川県の認知症疾患医療センターに配布した。また,公開情報として,以下のHPに掲載している。https://researchmap.jp/multidatabases/multidatabase_contents/detail/294877/cffb7d2225f814d55a449580c2ec5e92?frame_id=562787