研究概要

代表者氏名鈴木 美奈子(すずき みなこ)
代表者所属機関一橋大学大学院社会学研究科
役職・課程博士後期課程
助成年度2012年度

研究テーマ

フランスの旧植民地出身東南アジア系難民の子供の二重の境界/他者化という経験と家族ー地域社会に着目して

研究概要

 本研究は、難民家族の子供に焦点を当て、彼/彼女らの社会参加の形態とアイデンティティの模索を検証し、親及び受入地域社会との間に構築されている境界の考察を目的としている。フランスの東南アジア系住民(インドシナ難民)であるこれらの人口集団は、1975年(当時、20000人)以降急増しており、現在ではフランス国籍への帰化者も含めると、25万から35万に達するという(Le Huu 1995)。調査は、アジア系の集住地域であるパリ13区(約20%)、パリ東部の2つの市で行った。リモージュの状況についても情報収集を継続した。13区の母語教室、パリ東部の母語教室、市議会等で参与観察、を実施した。社会参加とアイデンティティについては、①学校選択、職業選択に見られるキャリア形成過程、アソシエーション活動、政治的活動を通じた社会参加の実態、②「モデル・マイノリティ」としてのアジア系とそれに対する自己アイデンティティの位置づけ、③親の難民経験と、その子供に焦点を当てた。研究目的は主に3点、A. 歴史的な出来事(政変、戦争等)を経験し、強制的な移動(forced migration)を強いられる人々の難民経験の意味の考察、B.受入社会(本研究ではフランス)の中でアジア系住民に付与される「モデル・マイノリティ」としての良いイメージのインパクトの検討、C.地域レベルでアジア系人口が受入地域社会に参加する場合の特徴を難民1世と2世の事例から考察することである。調査の具体的な方法は以下の通りである。1.一次資料の収集①イル・ド・フランス の東南アジア系の人口動態、集住の実態、②調査地のある市の市定期刊行物、新聞記事、アソシエーション発行資料、市議会議事録、③母語教室やパゴダ関連資料 2.参与観察「ノワジエル母語教室」の活動、ローニュ市とブッシ-・サン・ジョルジュ市の市議会、パリ市東部に位置するパゴダ(仏教寺院)に随時参加し、難民1世と2世、その他の定住外国人、フランス人との間で行われる相互作用について参与観察を行った。3.ライフストーリーの聞き取り 母語教室の生徒を対象に、聞き取りを行った。その結果、①難民第一世代の母国での難民経験、来仏の経緯が家族のメンバーの中で主に「沈黙」、または「あまり語りたがらないこと」として経験されてるが、「苦悩の歴史」として認識されていること、②難民第一世代の権威主義的な価値規範とフランス社会でアジア系が「統合の成功モデル」とみなされている上でのポジティブなイメージが難民第二世代のフランス社会への同化を促進していること、③他の移民のようなホスト社会への異議申し立ての行動ではなく、出身国社会への支援や母語保持等、自分のルーツ探しといった自分の文化的出自の探索、回復に向かう。