研究概要

代表者氏名吉元 菜々子(よしもと ななこ)
代表者所属機関首都大学東京大学院 人文科学研究科
役職・課程博士後期課程
助成年度2016年度

研究テーマ

中央ネパールにおける都鄙コミュニティの形成に関する社会人類学的研究――地方都市ポカラとグルン村落を事例に

研究概要

 本研究は、中央ネパールの都市ポカラとその周辺村落を舞台に、グルンと呼ばれる人々が日常生活を送る今日的なコミュニティのあり様について、特に筆者の調査村の事例をもとに考察するものである。今日のグルン村落には、出稼ぎのための海外移住や都市への人口流出、農業や牧畜といったかつての主要な生業の衰退、あるいは貨幣経済の浸透と依存といった状況がみられる。とりわけ既往のグルンの村落-都市研究が着目してきたのは、海外での傭兵活動などを契機に村を離れた人々がポカラへ移住するという「村落から都市へ」の移動であった。一方、本研究が着目したのは、近年の村落-都市間の交通システムの充実や村落部における生活の利便性の向上により、村落の価値が相対的に上昇してきているという新たな状況であり、それに伴い、ポカラに居を構えたにもかかわらず、村の家屋や土地を手放さない者が増加してきているという現状である。今日の調査村―ポカラ間において見られるのは、都市への一方向的な流出というよりはむしろ、Uターンを前提としつつ仮住まいとして都市居住を選択する村落出身者の姿であり、また、村落-都市間で日常的に、かつ双方向的に人とモノとが移動しているような情景である。このような意味で、今日の調査村の住民とポカラ移住民の双方にとって、生活圏は村/都市のいずれか一方に留まるものではなく、むしろ、村落と都市が一つの連続的な生活世界となっているのだと指摘した。